特許の明細書の作成はなぜそんなに時間がかかるの?(後編)
こんにちは。兵庫県 西宮市の弁理士・倉橋です。
今回は、「なぜ特許の明細書作成にはそんなに時間がかかるのか?(後編)」について、簡単にご紹介したいと思います。
参考:「特許の明細書の作成はなぜそんなに時間がかかるの?(前編)」
目次
特許の明細書の作成はなぜ時間がかかる? その理由とは
前回のおさらいですが、
特許の明細書作成になぜ時間がかかってしまうのかというと、主に以下❶~➍に時間がかかるからという答えになります。
❶先行技術の調査・検討・学習
❷権利範囲の検討
❸明細書と図面の構成の検討
➍抜け漏れ・誤字脱字のチェック
後編である今回は、❸➍について簡単に説明していきます。
上記❶~➍は、分かりやすさを重視するため、あくまでもザックリとした項目(私の理由)です。
明細書の作成時に検討している事項・留意事項を一つ一つ列挙していくと、それだけで本が数冊書ける分量になってしまうため、ザックリとした説明になってしまう点はご容赦ください。
また、弁理士によって個人差があるため、理由は上記とは異なる場合があります。
❸ 明細書と図面の構成の検討
発明者との打ち合わせをした後、すぐ明細書や図面等の作成をしたいところですが、実際にはすぐに取りかかれるわけではありません。
上述した「➊先行技術の調査等」や「➋権利範囲(特許請求の範囲)の作成」を行い、その後で明細書や図面の構成の検討に入ります。
具体的には、取得したい権利範囲を考慮したうえで、
・「開示範囲(開示できる部分・開示しない部分)の検討」
・「最もよい実施例はどれか」
・「必要な実施例のバリエーションはどれか」
・「(より効果的に、分かりやすく発明を説明するため)複数の実施例をどの順番で紹介すべきか」
等の検討を行い、明細書と図面の構成(図面数・実施例の順序・文章の記載方法など)を決定します。
発明に至ったストーリー(これまでの課題と、その解決方法)が変わると、明細書の記載内容・順序なども変わってくるというのは前回説明しましたが、
それと同じく、開示範囲(開示できる部分と、開示しない部分)に依って書き方や図面なども変わります。
➍ 抜け漏れ・誤字脱字のチェック
特許というのは、先に発明した人に無条件で与えられるというものではありません。特許権(独占権)は、先に出願した人に与えられるものです。これを、「先願主義」と言います。
さて、この特許権ですが、最も早く出願した人にしか与えられないのであれば、みんな最も早く出願したいですよね。
つまり、特許出願はスピード勝負という側面があります。
しかし、ここで一つ問題があります。
それは、出願を急いで慌てて書類を作成した場合、誤字脱字などのミスや、記載の抜け漏れ、検討不足などが起こりやすくなってしまうということ。
しかも、特許の出願書類に、(一定の条件下や特例などを除いて)後から追記したり、補正したりすることは禁じられています。
このように、慌てて出願しなければならない事情があるにも関わらず、特許出願は出願時点で100%に近い完成度が求められます。
しかも、書き方ひとつで権利範囲の大きさも変化してしまうため、出願前の抜け漏れ・誤字脱字チェックは非常に重要です。
・特許の出願書類に対し、後から(いくらでも無制限に)追記・補正を認めてしまうと、権利範囲がいつまで経っても決まらず混乱を招き、第三者が不測の不利益を被る恐れがあります。
このため、(一定の条件下や特例などを除いて)出願書類に後から追記したり、補正することは基本的には認められていません。
・近年は60%くらいの完成度でサービスや商品を公開・リリースし、運用しながら完成度を高めるという手法がよく知られていますが、特許出願はそれとは真逆の手続きだと言えます。
こうやって書き出してみると、特許の出願書類の作成には、検討しなければならない項目が非常に多いですね。
権利化するのに必要なプロセスですので、「こんなことしてるのか~」と、頭の片隅にでも入れて頂けたら嬉しいです。
いかがでしたか?
特許の出願書類の作成にはノウハウがあり、専門性が高いため、慣れていないうちはハードルが高いと考えます。
また、明細書の表現によっては特許権の権利範囲がとても小さくなってしまいことがあります。特許を取得したけどあまり意味のない権利になってしまったということがないよう、この点についてご留意ください。
特許の出願書類の作成が面倒な方や、慣れていない方、適切な出願書類を作成できるか不安な方は、弁理士に依頼することをオススメいたします。
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