ときめきメモリアル事件を分かりやすく解説【同一性保持権の判例解説】
こんにちは。兵庫県 西宮市の弁理士・倉橋です。
今回は、著作権の同一性保持権を争った「ときめきメモリアル事件(最高裁 平成13年2月13日 平成11(受)955)」について、要点を分かりやすく解説していきます。
▼「同一性保持権」についての解説は、こちらを参照ください▼
参考記事:「著作権法における『同一性保持権』を簡単に解説します(著作者人格権)」
目次
ときめきメモリアル事件の概要(同一性保持権について争った判例)
この事件は、
初代プレイステーション®用のゲームソフト『ときめきメモリアル』について、同一性保持権(著作者人格権の一つ)を有するZ社が、
チートの改造セーブデータを格納したメモリーカードを販売したY社に対して、1997年に訴訟を起こした事件です。
参考:「裁判所 最高裁判所判例集 事件番号 平成11(受)955」
具体的には、
「ゲームソフトが 映画の著作物 に当たるか」や「メモリーカードの販売が同一性保持権の侵害に当たるのか」などが争点となりました。
『ときめきメモリアル(通称:ときメモ)』とは、
プレイヤーが高校入学したばかりの主人公を操作し、3年間の高校生活の中で様々なイベント選択を行うことで、自身のパラメーターと女生徒の好感度を高めていき、卒業式に意中の女生徒から告白を受けることを目指して努力を積み重ねていく という「恋愛シミュレーションゲーム」です。
なお、メモリーカードとは、ゲームソフトのセーブデータを格納するために、初代プレイステーション®に挿して使用するカードのことです。
問題のメモリーカードには、本来は低い値から始まる主人公のパラメータなどが最高値になっていたり、卒業式間近から始められるセーブデータが格納されていました。
『ときめきメモリアル事件』の主な争点とは?
上述したように、この裁判では
「ゲームソフトが『映画の著作物』に当たるか」や「メモリーカードの販売が同一性保持権の侵害に当たるのか」などが争点となりました。
この裁判において、訴えられたY社の反論内容は次のとおりです(セリフ調にしてみました)。
・ プレイヤーの操作次第で ストーリーが分岐していく【ときメモ】は、『映画の著作物』じゃないです
・ うちはメモリーカードの販売なので、著作物本体(ゲームソフト自体・CD-ROM)の改変はしてないですよ
・ 仮にこれが著作権の侵害だとしても、実際に侵害行為をしているのは、改造メモリーカードを購入したプレイヤーですよね
要するに、
「そもそも『ときメモ』は著作物じゃないから、著作権侵害じゃない」「(ときメモが著作物だとしても)著作物本体を改変したわけじゃないから、著作権侵害じゃない」「著作権を侵害しているのは購入したプレイヤーであって、Y社ではない」
というのが、Y社の反論でした。
『ときめきメモリアル事件』の実際の判決(結果を解説)
これに対し、裁判所(1999年の第二審)は、次のような判決を下しました(こちらもセリフ調にしてみました)。
・ いいえ。ゲームは『映画の著作物』に当たります
・ 改造セーブデータのせいで、ゲーム制作者が本来予定(意図)していた範囲外のストーリーに変わってしまうことから、同一性保持権の侵害に当たります
・ Y社の行為は、プレーヤーの使用による同一性保持権の侵害を惹起するものであり、Z社の(Y社に対する)損害賠償請求を認めます
ちなみに、この判決は、2001年に最高裁判所がY社の上告を棄却したことで、確定しました。
このように『ときめきメモリアル事件』は、
「ストーリー分岐のあるゲームソフトが『映画の著作物』として保護され得ること」を示すと共に、
「(著作物本体だけでなく)改変を助長するようなアイテムの販売も、同一性保持権の侵害に当たること」「著作物の改変を目的としたアイテムを流通させた者(侵害行為を惹起する行為をした者)も、損害賠償請求の対象となること」
などを示した判例と言えます。
いかがでしたでしょうか。
判例というのは、法律の条文を読んだだけでは判断がつかないために起こった「実際のトラブル事例」ですので、条文解釈の大きなヒントになります。
特に著作権の判例は、興味を引くタイトルが付けられていることが多いので、気になりますよね。
ただし、実際の判例文は分量も多く、読み解くのも一苦労だと思われます。
また、著作権法もなかなか難解ですし、それぞれの置かれた立場によっても結果が変わってくることがございます。
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